Interview

越智康貴 Ochi Yasutaka

初個展「肉体の學校」開催に際するインタビュー。モチーフに込められた意味や制作への思いをアーティストに聞く。

――フローリストや写真、文章など多岐にわたる表現活動をされていますが、あらためて越智さんの現在の活動について教えてください。

現在は、花、文章、写真、絵画、占いなど、様々な制作活動をしています。具体的には、花屋の運営をしながら装飾の仕事を請け負っています。また、クライアントワークとして写真撮影をしたり、雑誌やWEB媒体などに小説やエッセイ、占いなどを寄稿しています。境界線は無く、花と写真と占いと文章がミックスされることもあります。全体を通して、神秘思想に基づいた物事の捉え方で、セラピーやメンタルヘルスケアのその先にあるものを提案したいと思っています。

――絵画制作に取り組むようになったきっかけを教えてください。

花屋の仕事で、花にまつわる絵本を描いたことがきっかけです。

――子供の頃から現在に至るまで、影響を受けた文化や作品、アーティストや展覧会はありますか? どのようなところが印象に残っていますか?

ケン・ウィルバーという哲学者が提唱しているインテグラル心理学(プレモダン、モダン、ポストモダンに登場した様々な心理学から本質的な部分を統合し、人間の意識の発達レベルを再定義する思想)に影響を受けています。また、リズ・グリーンという占星術家にも多大な影響を受けています。

どちらも人間の根源的な欲求に目を向けながら、時間や空間に捉われない意識を提唱しているところが印象的です。

――本展のタイトル「肉体の學校」は三島由紀夫の小説から引用されたとのことですが、このタイトルを選んだ背景や作品との関係性を教えてください。

三島由紀夫の「肉体の學校」は、洞察と騙し合い、支配、コントロール欲という恋愛の狂おしさと共に、独立した女性像が爽快に描かれています。この”他者を通して自身の欲求や衝動の方向性を見出す”ということも包含しながら、さらに広い視点に立ち、社会(他者)の目で見て自身を認識するのではなく、自分自身が何を感じ何を求めているのか、肉体感覚を正常に機能させて”ただ生きているだけで既に備わっている天才性” を理解することを目的としました。

――個展のステートメントで、「肉体を学び、意識に主体性を取り戻す」と述べられています。この考えに至った経緯や、制作を通じて感じた変化はありますか?

自分の顔は、自分で見ることができません。肉体そのものも、およそ半分程度しか自身の視覚からは認識できません。他者という存在を通して想像で自身を補っています。肉体というものの物質性から”肉体が実際で、心が想像”という区分けを多くの人が無意識的に行ってしまっています。

けれど“自身の意識が主体”という認識を持てば、心のほうが実際的で全て理解することができ、肉体のほうが想像的であることがわかります。そして他者と自身を相対的に捉えてしまう苦しみから抜け出すことが可能になるとわかります。テキストでは理解し難いこの感覚を、体験的な知識として共有したいと願い、今回の個展に至りました。

――越智さんの作品には、友人の顔や自画像、花、ピカソやマティスのオマージュ、可愛らしくも少し毒気のあるイメージが登場します。これらのモチーフは直感的に選ばれたようにも、なにかの象徴に見えるものもあります。モチーフを選んだ理由や、込めた意味について教えてください。

占星学や神秘思想から、自身にとってイコノグラフィーは重要なテーマになっています。一つひとつのモチーフは単体でも意味合いを持つものが選ばれていますが、物語のように1枚の絵のなかで相互作用し合っています。また、やや矛盾して聞こえるかもしれませんが、僕自身は作家主義的な考えが好みではありません。ご覧になった方々が各々の体験的な知識から紐解くことで、それそのものが占いと化すような作品づくりを行っています。

――《肉体の學校》などは鉛筆画とコラージュの技法を、《知覚(perception)》などは壁紙を、「天使の遊び場」シリーズはコラージュと水彩色鉛筆を用いて制作されています。これらの技法を選んだ理由はなんでしょうか。技法が作品に与える影響はありますか?

美術教育を受けていないものが、比較的手に入りやすい素材で、誰にでも真似できる技法をつかうことが重要だと考えています。それから“作品制作をしよう”と考えた際、自身の経験から離れたものを使用することは好みではありません。

幼少期に使った水彩絵の具やクレヨン、シャープペンシルなど親しみのあるものを使用し、学生時代の落書きの延長線上にあるものを制作することが自身にとって正しいことだと思えました。

――鑑賞者に伝えたい思いや、こんなところに注目してほしいという作品のポイントはありますか?

他者へ投影的だった時代から、自身が個として主体的に生きていく時代へと変容していく渦中にいるのだと感じています。自我/所有/情報伝達/居場所/創造性/義務や健康/対人関係/遺産/精神的学問/達成/組織/無意識的な領域で、自身の衝動の方向性がどういったものなのか、再認識するきっかけになることを願っています。

――今後、挑戦してみたいテーマや企画があれば教えてください。

魂の全体性というものをテーマに、トランスパーソナルな精神世界をテーマに制作に取り組んでいきたいと考えています。

聞き手:林里佐子(光灯)

2025年5月 メールにてインタビュー