Interview

酒井建治 Kenji Sakai

個展「The Beautiful」Remains」開催に際するメールインタビュー。

――今回の個展のコンセプトについて教えてください。

今回は、ロンドン滞在中から制作を始めた《The Beautiful Remains》シリーズを展示します。本シリーズでは、「遺骨」というモチーフを起点に、個人のイメージが他者の視線や語りによって再解釈され、つくり直されていく過程を扱っています。遺骨は、一度変化すると元には戻れない、不可逆な状態のメタファーでもあります。

私たちが生きる中で経験する出来事や感情は、他者の語りや社会の構造を通して濾過され、個の輪郭は静かに変質していきます。その過程は、社会という湖の底に、声にならない不安や空虚が沈殿していく現象にも似ています。私自身、その状況を観察しているつもりでありながら、同時にその内部にいる存在でもあります。気づかないうちに沈殿物を溜め込み、都市の呼吸に合わせるように日々を過ごしている。

湖の水面が穏やかであるほど、その底には多くの沈殿物が蓄積されているのかもしれません。社会や都市が揺らいだ瞬間、それまで内側に引き受けられていたものが、別のかたちとなって浮かび上がってくる。本展では、その構造の気配を空間の中で立ち上げようと試みています。

――ロンドンで制作を続けるなかで、作品制作に対する意識や環境に変化はありましたか。それはどのような変化でしたか?

制作自体でいうと、ロンドンに渡ったこの1年半で、作品を1点作るためのドローイングや試作の量が増えました。ロンドンで展示に参加する方法は、オープンコール(公募)に応募することが一般的で、手元にある程度作品をいくつか持っておく必要があり、ストックを沢山作っていくうちに自然と作品数が増えたような気がします。 

アトリエは現地に着いて割と早く見つかり、イギリス人のアーティストとともにシェアして使っています。また、ロンドンで展示をしていく中で、展示の空間の使い方や作品のテーマである人と人や物と物の関係性について考えていることが日本的だと指摘されることが多々ありました。様々な文化背景やアイデンティティを持った人たちが集まるロンドンという環境の中で、日本人としての自分自身について考えたり調べたりする時間が制作と同じくらい増えたのは1番の変化かもしれません。日本にいる時以上に日本について考えていました。

――ロンドンで制作した作品を日本で発表することについて、どのように感じていますか?

ロンドンでは基本的にアトリエにこもって、晴れたら公園に行くというような生活をしていて、東京に住んでいた時は極端に言えば、自転車のギア1であまり進んでいる感じがしないけどひたすら漕いでいた感覚で、ロンドンではギア6であまり漕いでいる感じがしないけど表現の思考や技術に対して確実に変化を感じていました。

ゆっくりとした時間の流れの中で出会って吸収した、ロンドンの空気感や色を持って帰ってきて展示で表現できたらなと思います。これからも続く長い作家人生のたった一年半の小さな変化ですが、これまで見ていただいた方々に作品を通して感じてもらえたら嬉しいです。

――渡英後の活動について教えてください。

2025年

・「bridge」グループ展(biscuit gallery × NISO、東京)

・「TO SEE A WORLD IN A GRAIN OF SAND」グループ展(Qloud Collective 、ロンドン)

・「AUTO AMOR」グループ展(AUTO AMOR、ロンドン)

・「SAFE HOUSE」キュレーション(safe house 2、ロンドン)

・「Out Of The Diary」グループ展(SAI、東京)

・「Annual Open 2025」グループ展(Southwark Park Gallery、ロンドン)

・「SWAB Barcelona 2025」アートフェア(バルセロナ)

・「EASTEAST_ 2025」アートフェア(東京)

2026年

・「CAN Madrid 2026」アートフェア(マドリード)

・「MORFO mix」 グループ展(MORFO、マドリード)

・「AUTO AMOR vol.5」グループ展(outhouse gallery、ロンドン)

・「Weight in Translation」グループ展(ArtE N、ロンドン)

・「minor attractions 2026」アートフェア(ロンドン)

2027年

・「タイトル未定」キュレーション&グループ展(ニューヨーク)

――近年の活動のなかで、現在の制作につながっている出来事はありますか?

前の展示を見ていただいて次の展示に呼んでもらってっていう、数珠繋ぎ的に展示の機会をいただけているので、全ての展示が現在の制作に繋がっているなぁと思いながら、ロンドンだけではなく、スペインやニューヨーク(2027年予定)といった周辺国で展示ができることはあまり想定しなかったことなので、それはロンドンに身を置いたおかげだなと実感しています。

また意外だったのは、国や都市越えて連絡が来るこの感覚は、例えば東京にいてアジア圏のギャラリーと連絡を取るよりも、大阪のギャラリーと連絡を取るレベルの身近な感覚でした。もしかしたら相手の方がとてもフレンドリーで親切だからそう感じているのかもしれません。

他の国や都市のギャラリーとも連絡をとれたり、作品の輸送や関税対策を考えたりと、制作だけではなく今後活動していく時に必要な経験もありがたいことにさせていただいています。

そうやって色んな国や都市に行くほど益々自分が日本人であること、自分という存在がそこで展示をすることについて考えさせられる機会となっています。

聞き手:林里佐子(光灯)

2026年5月 メールにてインタビュー